米国、AI技術重用・新戦略

生成AI

米国の狙い

米国防総省が中国を念頭に、無人機(ドローン)や人工知能(AI)を

活用する新たな戦略に着手した。

米軍を近海に近づけないという中国の「接近阻止・領域拒否」

(A2/AD)戦略を打ち破る狙いがある。

兵員や艦船、ミサイルの「数」で優位にある中国にAI技術を

搭載した大量の無人機や無人艇で対抗することが柱だ。

数千規模配備

新戦略は、レプリカ(複製)の関連語から「レプリケーター・

イニシアチブ」という。

全貌は公開してはいないが、ヒックス国防副長官が最近、

一端を明かした。

それによると、米軍はAI技術を組み込んだ無人機や無人艇等、

数千規模の「自律システム」を2年以内をめどに配備することを

目指している。

核兵器や空母、戦闘機といった従来の大型兵器とは異なり、

無人機では「小型、高性能、安価」という特徴を生かす。

大量展開により、敵の攻撃で一部が破壊されても、全体的な

戦闘能力を維持できるようにするとみられる。

無人機の活用で、兵士の犠牲も最小限に抑えられる。

中国のA2/AD戦略は、中国本土や台湾に米軍を寄せ付けないと

いうもので、「空母キラー」と称される対艦弾道ミサイルなどの

配備を進めている。

米軍の新戦略はA2/ADの弱点を突き、安価な自律システムを大量に

配備し、素早く補充することを重視した。

ヒックス氏は、大量のミサイルや艦艇、兵士などを有する「中国の

優位性に打ち勝つのに役立つ」と自信を見せる。

自律システム

自律システムについては、多数のセンサーを搭載し、太陽光などを

動力源にした無人艇でリアルタイムの情報収集を行うことも検討

している。

新たな形のミサイル防衛も探っていく。

各種の自律システムを陸海空や宇宙など複数の領域に展開させ、

巨大なネットワークにすることを構想しているという。

ヒックス氏は「2024年会計年度では新たな拠出は要求しない」

と述べた。

既存の財源を活用し、新たな組織を編成せずに進めるとしている。

台湾有事抑止

バイデン米政権は昨年10月に公表した「国家防衛戦略(NDS)」で、

中国への対応強化を打ち出し、A2/ADに対抗出来る攻撃能力の確保を

掲げた。

だが、台湾有事の際、中国の対艦弾道ミサイル攻撃などを阻止でき

なければ、台湾周辺に空母を派遣することができない。

A2/ADを打ち破り、有事の際に台湾周辺で軍事作戦を実行できる

能力を示すことで、中国・習近平政権による台湾統一を抑止しようと

している。

今回の新戦略は、その重要な基盤となる。

中国は核戦力も急速に増強している。

国防総省が今年10月に公表した報告書は、中国の運用可能な核弾頭数が

5月時点で500発を超え、30年までに1000発超に達するとの見通しを

示した。

極超音速ミサイル技術でも、中国は先進技術国にも匹敵する水準で、

統合的な作戦能力を高めていると分析した。

「中国の首脳らが毎日起きるたびにリスクを考え、[今日は進行する日

ではない]と結論づけるようにしなければならない。」

国防総省高官は、中国に対する軍事的優位を維持する意義を

こう説明した。

中国軍のAI活用に警鐘

中国軍による軍事作戦への人工知能(AI)の大幅導入が米中の軍事

バランスを崩し、核攻撃をも招きやすくする。

こんな警告が米議会の諮問委員会から発せられた。

バイデン米大統領と中国の習近平国家主席による首脳会談に先立ち、

米中間の安全保障を調査する超党派の米中経済安全保障調査委員会は、

2023年の年次報告書を発表した。

700ページ以上の報告書は、中国による他国の政治への介入や経済的

野望、軍事力強化など、首脳会談では表に出なかった厳しい現実を

あらわにした。

米政府と議会への政策勧告を含む報告書が最大の警鐘を発したのは、

中国軍が米軍の優位を崩すため、AIを大幅に活用することが将来、

米側にとり危険な状況を生むという点だった。

「中国軍が最悪の事態として米側への核攻撃を考える際、AIによって

その決定が敏速かつ自動的となり、人間の配慮が入る余地がへる

危険が予測される。」

歴代政権で国務省、国防総省の高官を務めた調査委員会委員の

ランディ・シュライバー氏が報告書発表の記者会見で説明した。

報告書や会見では、中国軍の核戦略で敵の認知や標的の確定に

AIが大幅に使われ、攻撃決定の速度が高まる危険性が強調

されていた。

特に台湾攻略に絡む小規模の戦術核兵器の使用の決定にそんな

可能性が懸念されるという。

米側はこの点、人間の判断を優先するべきだ、というのだ。

米側が優位にある潜水艦戦力や宇宙利用攻撃能力に関しても、

中国側がAIを重用するとも指摘していた。

中国軍は米側の水中戦力に対してAI依存の自律型無人潜水機を

急速に開発、配備して米側の潜水艦の探知や妨害に着手し始めた

という。

米側の優位が崩れかねない新情勢が生まれている。

AIの軍事利用は、今の世界での新たな重大課題であり、

チャレンジだろう。

その正確な実態も、適切な回答もまだ霧の中である。

中国側にとってもAIの軍事への効果的な利用には、なお難関も

あることが報告書では指摘されていた。

第1は米政府が昨年10月から実施した、AIに不可欠な最先端

半導体の中国への移転に関する規制。

第2は中国側のAI技術者の海外流出で、米側の調査では、

約2800人の中国人トップAI技術者の3/4が海外在住で、

その85%が米国在住だとされる。

ちなみに中国在住のAI専門家では第1人者とも目されていた

人物が今年7月、不審な死を遂げたことも複雑な波紋を広げている。

中国軍が貪欲に進めるAIの軍事利用は、もちろん、日本にとっても

重大な懸念の対象である。

 

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